年寄りの冷や水

2001年12月5日
 勤務終了後、自分の部屋(自宅)でゆっくりしていたら、職場の同期(H氏)がやって来る。
 なんだか、心なしか、いくらか張り切っているようにも見える。
「これから風呂に入ろうとしていたんですけれど…」
「それはやめた方が良いよ」
「どうして?」
「今日はS湖を一周するぞ」
「そりゃ、構わないけれど。まさか…」
「走って一周だ」
おいおい。

「最近、池波正太郎を読み返していて」
「ほう」
「いろいろ、美味しい食べ物の話が出てくるので、Hさん向けかもしれないですよ」
 H氏は『美味しんぼ』の愛読者である。昨年も仙台に行き、『美味しんぼセット』やら牛タンを食べに行ったほどだ。私もその時一緒だった。
「いや。ますます美味しいものを求めて出歩くことになるから、お金がもたない」
「そうかもしれませんね。そういえば、池波正太郎のエッセーで『むかしの味』というのがあって。その中にクリームソーダが出てくるんだよね。それが私には印象的でしたよ」
「うちらの飲んでいるものとは違うのだろうけれど、面白いねえ。うちらは、ああいった飲み物や食べ物の時に育ったからね」
「そうそう」

 S湖畔に到着。
 湖とはいいながら、ほとんど沼と変わらない。
「じゃあ。ここから一周ということで」
「いいでしょう」
 いつの間にか、二人とも走り出している。
 二人で走ると、知らないうちに対抗意識が出てくる。
 ペースが高めに推移している。
 久しぶりにマラソンをする私には、きつい。
 いつしか呼吸も荒くなっている。
 しかし、H氏の呼吸は割に静かである。
 そのうち靴紐が解ける。でも構わず走り続ける。
 上着を脱ぎ、手に抱えて走る。
 あの街灯まで。あの木のところまで…。
 対岸にスタートした辺りが見える。ここまで来たら、あと三分の一程度だ。頑張れ。
 やっとの思いで、スタート地点に到着。息が上がってしまっている。
 一周3.2キロ程度を、15分程度で走ってきたことになる。
 クールランニング代わりに、歩いて帰宅の途につく。
「いやあ。ダメですよ、これじゃ」
「あのK君には及ばないなあ」
 K君とは、別の部署の後輩で、体力維持を怠っていないヤツである。彼は同じコースを最も速いペースだと12分程度で走ったという。
 フルマラソンの大会に出場したりもしている。
「まあ、久しぶりに熱くなったなあ。たまにはこういうのもいいかも」
「そうだね」

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