出張最終日。
 午前中の会合を終えたら、京都から岡山・香川に行くことになる。
 もともと、讃岐うどんが、私たちにすると本題なのである。
 無論、今回の出張の重要性は理解しているし、自分なりに真面目にやっているのだけれど、個人レベルでは話は違ってくる。
 今回の旅行は妙に忙しい。

 午前中も、講演などを聴く。
 講師を招いての講演は、今回の中で最も、つまらなくきこえた。どこかの大学講師であるようだが、普段、どんな講義をしているのやら。
 言いたいことのわかりづらい話は、退屈に聞こえてしまう。

 会合が解散し、京都駅へ。
 職場向けなどに土産を購入。荷物になるので、駅から宅配便で送る。
 そのまま、岡山方面行きの「ひかり」に乗車。
 改札の段階で、発射時刻まで残り1.2分だったので、ヒヤリとした。
 本当は、在来線でゆっくり車窓を楽しみながら、行きたかったのだけどな。
 神戸から先、須磨だか舞子のあたりの車窓が、海ギリギリにせり出しているので、結構良いらしい。

 岡山着。
 空気は、京都よりやや、心持ち暖かく感じる。上着は手放せないけれど。
 とりあえず、岡山城と後楽園とを見に行く。
 岡山駅前から後楽園最寄の城下(しろした)停留所まで10分もかからない。路面電車で100円である。
 後楽園は広い敷地であり、ゴチャゴチャと木だの何だのを配置しないシンプルさに好感が持てる。
 梅の名所として有名な庶民的な味わいの偕楽園(水戸)や、建物・池・灯篭・木の配置に工夫を凝らしている(ように見える)兼六園(金沢)とも、違った良さがある。

 橋で岡山城側に渡る前にふと、ボート乗り場が目についた。
「乗ってみますか?」
「いいですねー」
 これがいけなかった。
 ボート乗り場のある後楽園側と岡山城との間に、旭川という川が流れているのだが、ボートが流されているのだ。
「なんか、下流の方に流されてますよ!」
「流されて、ボートの向きが修正できないよ」
「右だけ漕いでください。ちょっと曲がりすぎ。今度は左だけ」
 笑いながらも、危険さを感じるシーンだった。
 幸い、ボートを漕ぐのにも慣れてきて、なんとか元の乗り場にたどり着けた。あのまま児島湾まで流れて行かなかったことには、悪運の強さを誇っても良いと思う。
 せめて、アヒル(?)の足漕ぎボートにしておけば良かった……。
 N君は笑いながら、
「忘れましょう。トラウマになる。もう憶えていません」
などと言う。

 岡山城を見た後、路面電車で駅前まで移動。
 最新式の路面電車(LRV)に乗ることができた。MOMOという愛称がついている(岡山の特産と、ミヒャエル・エンデの『モモ』とをかけているらしい)。
 床面の高さが、停留所の高さとほぼ同じで、乗り降りしやすい。乗り心地も心なしか良く、音はとても静かだ。

 岡山から香川へJRで移動。
 私は四国に渡るのは初めてだ。
 瀬戸大橋(鉄道橋)から見る、瀬戸内の海はなかなか気持ちが良い。右も左も海で、見るのにちょっと忙しい。
 小さな島が、幾つか見える、小さ過ぎて、人の住んでなさそうな島もある。
 船の行き来も見える。結構、数が多い。
 ふと、中世の瀬戸内の海賊や水軍に思いを馳せたりしてしまう。

 高松着(18時近く)。
 予約しているレンタカーを受け取り、宿まで行く。
 宿では食事の予約はしていない。素泊まりだ。
 当然、食事はうどんだ。
 到着して一息ついたあと、早速、自動車で讃岐うどんの旅である。
 予めN君が目をつけていた店の一つに向かう。
 店の場所は宇多津なので、そこまで移動する途中に店があれば、そこもということに。
 途中から、運転を私がすることとする。
 普段、自動車を生活に使用するN君が運転を嫌い、自動車を保有していない私は運転する機会を欲しているのだから、おかしなものである。

 宇多津に向かって、県道を運転していると、良さそうな店を発見。入ってみる。もうお腹も空いていることだし。
 ぶっかけうどんを頼む。その間、私は空腹が我慢できず、おでんを取ってくる。コンニャクと大根。
 やがて、うどん登場。
 シンプルなのに、とても美味しさを感じるのが何とも不思議である。スルッと入ってくる。
 京都などで食べるうどんは、何となく上品な感じがするのに対して、讃岐うどんは、シンプルで素朴な中で美味しさを感じる。
 不謹慎な話で恐縮だが女性に例えると、素の良さからファッションや化粧なども含めた、総合点の高さが関西の美人(関西のうどん)の良さであるのに対して、素の良さを損なわない素朴さが香川の美人(讃岐うどん)の良さであるといったら言いすぎだろうか。
 おでんも美味しいのだけれど、これは関東風に馴染んでいる自分からすると、物足りなさをちょっと感じた。ちなみにおでんは、自己申告でうどんと共に会計する。

 次に、宇多津の店に行く。途中、道に迷って、通り抜け不能の(というより、突き当たりで曲がることができない)細い道に入りこんでしまうトラブルはあったが、着いたのでまずは良し。
 店に入ってメニューを見ると、冬なのに温かいうどんがあまり見当たらない。うどんの麺そのものに、相当自信があるのか。
 今度もぶっかけうどんを頼み、食べる。ここでも私はおでんを取ってくる(前の店と同じもの)。
 やがてうどん登場。本当に冷えたうどんだ。
 うどん自体は美味しいのだけれど、麺を噛み切れない。だから、さらに麺を啜るが、麺が長くて口の中がいっぱいになる。息が苦しい。
 何とか麺を噛み切ることはできたので、やっと落ち着いたけれど、何なのだろうこの麺は。
 食べ終えて、二人して一息つく。
 ふと、近くに目をやると、女性が一人で食べに来ている。地元の人ではなさそうだ。
 案外、同好の士(といってもこの場合は女性だけれど)がいることに、なんとなく面白味を感じる。

 店を出たあと、
「麺、噛み切れなかったよね〜」
「Mさん(私のこと)もそう思いました?ふざけるているのかってくらい、コシがありましたよね」
「自分の噛む力が弱いのかと思っていたけれど、Nさんもそう思ったんだ?」
「舌を使って、やっと噛み切っていましたよ」
「私も」
 うどんはうまいが、この店の麺のコシはありすぎだというところが、二人でもっとも共通の見解だった。
 何だかな。

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