夢を見た

2004年5月17日
 久しぶりだなー。

 とあるところで、年取った木の妖精と少女(少年かもしれない)が話している。
「すっかり、仲間がいないようになってしまったわい」
 木の精は、相当年老いているようで、枯れかけている。
「昔は、この辺りにも、もう少しみずみずしさを感じられたものだ。年若い木や花の精が大勢いたりしてな。虫や動物もたくさんおった」
「そうなの?」
「にぎやかだったぞ、そのころは。ところがこの頃は」
 木の精は、ため息をついた
「この辺りの植物の精は、どうやらわしだけになってしまったようだ」
「そんなことないよ。木のおじいさんは動けないから、そう思うだけじゃないの?」
「しかし、昔は花の季節になると、花びらが風に舞って、花の精が健在なこともわかったものだが、どうしたわけかこの頃ではそうした花の便りも絶えてしまった。彼らは生きているんだろうか」
 少女は話を聞いていて、悲しい気持ちになってきた。
「もっとも、わしも年老いてしまったから、そろそろこの世界から去らねばならんようだ。そうしたら、この辺りからは本当にわしのような存在がなくなってしまう。残るのは、わしが住まいにしていた、この大木だけだろうよ。それすらもいずれは消えるだろう」
 木の精は、淡々と話す。
 この世にあったものが消えてしまう。今の今まで親しく話していたものが消えてしまう。
 少女は間近で話をしているのに、木の精がだんだん遠くに行ってしまうような、寂しい気持ちを感じてきた。
「そう言えば、お前さんのように、わしらに話し掛けてくる子供もいなくなってきたな」
「みんなもお話すればいいのにね」
「最近の子供は忙しいようだな。こうしてわしらと話したり遊んだりする子は、お前さんくらいだ。ありがとうよ」
「子供の遊び相手がいないなら、大人はダメなの?」
「どういうわけか、子供の頃はわしらと話したり遊べても、大人になるとわしらが見えなくなったり、話ができなくなったりするらしい」
「木や花に話し掛ける人だっているでしょう?」
「そういう人たちは、わしらと同じように感じてはくれるが、言葉のやり取りはできていない。独り言なんだ。やはり、言葉を交わしたりして本当に分かり合えるのは子供だけのようだ」
「それだと、遊び相手が少なくて、寂しいね」
「確かにな。でもわしにはお前さんのような友達がいるから、いいさ」
 木の精の声がだんだん弱く小声になってきたようだ。
「少し話しすぎたかな。何だかのどが渇いたよ。少し休もうか」
「水筒に水を入れてきたよ。分けてあげるね」
 少女は水を木の根元にかけてやった。
「ありがとう。少し声が出るようになったよ」
 木の精と少女は少し休むことにした。
 今はすでに花の時期。
 しかし、見えるところに花の咲いている場所はない。
 木の精の居るところの辺り以外は、乾いていて、草木が生えていない。
 風が吹く。
「おや」
 木の精が何か見つけたようだ。
「珍しいこともあるものだ」
「どうしたの?」
「あっちをごらん。花びらが風に舞っているよ」
「本当だ。ということは花の精がいるということなのかな?」
「そうらしい。おお、花びらがどんどん増えている。こんなに華やかな花の舞は久しく見ていないよ」
「すごい!すごい!」
「何だか、眠くなってきたよ。もしかすると、この花の舞はかつての仲間たちの迎えなのかな……」
「おじいさん、おじいさん。眠っちゃダメだよ。まだまだお話してよ」
「そうは言ってもなぁ。だんだんぼんやりして、お前さんが見えなくなってきたよ。お休み……」
「おじいさん、遠くへ行かないで。お願いだから」
 少女はいつの間にか泣きながら木の精に訴えかけていたが、木の精はいつしか眠りについてしまった。
「おじいさん……。ダメだよ……」
 木の精は眠りから二度と覚めなかった。

 その様子を見ていた青年が見ている。
 手には、花びらのいっぱい詰まった籠を持っている。
「僕にはこれくらいしかできないからな」
 青年は独り言を言った。
「僕は、昔は見えたが、今はもう木の精は見えない。してあげられることはこのくらいなものだ。お休み、おじいさん」

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索